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ユーザーを観察し、誠実なマーケティングを心がける。世界中で利用されるカレンダーアプリTimeTreeのマーケティングで大切にしていること

by 吉本 安寿氏 | 5月 8, 2022

吉本 安寿氏のキャリアとバックグラウンドについて

2011年にYahoo! JAPANに入社し、約2年間広告商品の企画を担当しました。その後、当時Yahoo!JAPANとの合弁会社であったカカオジャパンへサービス企画職として出向し、プロダクトマネージャー業務を行いました。その後、株式会社TimeTreeに入社。TimeTreeではプロダクトマネージャー業務とマーケティング業務を担当しています。

吉本氏のインタビュー記事については、こちらをご覧ください。

TimeTreeについて

TimeTreeは2014年9月に設立。スマートフォンのカレンダーシェアアプリであるTimeTreeを展開、運営しています。TimeTreeは2015年3月にリリースし、ダウンロード数は3,500万を突破しています。ユーザーの6割〜7割が日本のユーザーで、残りの多くはドイツ・米国・台湾・韓国などで構成されています。2021年には日程調整サービスのTocaly(トカリー)を2本目のプロダクトとしてリリースしました。

ユーザーインタビューで得られる肌感を大切にする

個人的にもユーザーインタビューは好きで積極的に行っています。アンケートデータだけを見ても家族でよく使われていることはわかりますが、なぜ使われているのか、またどういう場面で利用されているのかまではわかりません。

実際にユーザーにインタビューすると、例えば「妻は子供の授業参観を予定していたけど、夫は出かける予定を入れてしまいトラブルになった。それでTimeTreeを使い始めた」といったようなその背景にある行動が見えてきます。
インタビューで得たインサイトは重要なので、それらを社内で共有することを大切にしています。

TimeTreeは日本以外にもドイツや台湾で利用者が多いので、ドイツや台湾のユーザーに対しても実際に現地に訪れてインタビューを実施しています。ドイツでは日本と同じように、家族ですれ違いをなくしたい、子供の予定を夫婦で共有したいという理由で「TimeTree」が使われていることがわかりました。
また、台湾でもユーザーインタビューを実施しましたが、家族ではなく恋人と共有して使われていることが多かったです。
おそらく、夫婦間ですれ違いを生むシチュエーションが他国に比べて少ないのが関係しているのではないかと思われます。このようなインタビューで得られた一次情報をもとに、海外のアプリストアの文章はチューニングなどをしています。

スタートアップ特有のスピード感を活かす

ユーザーからの意見を反映させてすぐに検証するという、機動的な動きができることはスタートアップならではの醍醐味といえます。ユーザーインタビューをしている中で「その予定、前から言ってたじゃん!」というユーザーの声から、スケジュールを共有できていなかったことで家族内でのケンカやすれ違いが起きているという課題が浮き彫りになりました。
このユーザーの声を、そのまま「TimeTree」の広告のキャッチコピーとして採用しました。インタビューで得られた一次情報を生かしてそのままマーケティングに繋げられることは醍醐味かなと思います。

オンライン広告の出稿や運用はインハウスでデザイナーと組んで進めています。
スピードが非常に速く、クリエイティブの交換やキャッチコピーの検証など、1週間も納品を待つことはありません。数時間後にはクリエイティブを入稿してすぐに検証することが可能なのでスピード感でも段違いに速いかと思います。

オンラインとオフラインを統合した全体最適の視点を持つ

私は、TimeTree社に入ってから初めてマーケティングを担当したのですが、マーケティングをゼロベースで考え組み立てられる環境があったのはよかったと思っています。どうしてもマーケティングでは獲得単価や認知率など担当している領域の部分最適化になってしまうことが多くあるかとは思います。

特に大きな会社であればデジタルの部署やマスマーケティングの部署が分かれていることがあり、それぞれの部署で部分最適に陥りKPIもバラバラになったりすることがあると思います。スタートアップという環境であったことも大きいと思います。
継続利用してくれるユーザーを増やすという本質的なことからぶれることなく、またマスやデジタルといった手法の区分にとらわれず、ユーザーの体験を意識しながらデジタルもマスも統合してマーケティングを組み立てることで、きちんとサービスを成長させるために必要な施策を考えられたと感じています。

ユーザーに寄り添った誠実なマーケティングを目指す

私自身様々なマーケティング業務を考えて実行してきましたが、ずっと心がけてきたことがあります。それはユーザーに誠実に接すること、そしてユーザーをよく観察することです。

例えば、ユーザーの行動の邪魔になるような広告はなるべく出したくないと考えています。
それによるブランドの毀損もありますし、広告効果の面でも懐疑的に思っています。表面的な数値は高く出ていてもその代償はいつか来ます。それよりも生活している中ですっと目に入ってくるような、そういう馴染みの良い広告の方が自然に頭に入ってきて記憶に定着しやすいのではないかと考えています。自分自身の経験からしても記憶に残っても体験が悪かった商品は試したくなくなります。
そういうことは理解しているはずなのに目先の効果を追ってそれに反するようなアクションはやりがちなのでそうならないように心がけています。

そしてユーザーをよく観察することも重要です。ターゲットがどのように1日を過ごしていて、通勤時間には何をしているか、家に帰った後の行動など、生活の空気感を感じ取ることが大切だと思います。
もちろんCPI、CPAなどの数値を見ることも基礎的なスキルとして重要ですが、ターゲットをきちんと理解して、ターゲットになりきってしまうぐらいに入り込めると良いかと思ってます。
どういうシーンでどんなものに接触しているのか、そのタッチポイントやタイミング、その時の態度など理解の密度が格段に上がるはずです。そういう消費者の生活状況を把握して、その理解を拡大してマーケティングを実行していけると本質的なマーケティングにたどり着くのではないかと思ってます。